ポストドクトラルフェロー

ライシャワー日本研究所ポストドクトラルフェローシップは、博士課程卒業直後の研究者が研究を続け、博士論文の出版を目指すことをサポートしています。フェローは、ハーバードの日本研究コミュニティと様々なかたちで関わり、教員、学生とともに研究に従事する機会が得られます。さらに、ジャパン・フォーラムで研究結果を発表する機会が設けられています。

2021〜2022年度ライシャワー日本研究所ポストドクトラルフェロー

シェーン・ドール (博士号:2019年トロント大学人類学専攻)

 

シェーン・ドール博士は、現代日本の山岳宗教である、修験道を主に研究する人類学者。カナダのレスブリッジ大学宗教学部、トレント大学人類学部を経て、2019年トロント大学人類学部で博士号を取得。また、マックマスター大学宗教学部で2年間、SSHRCポストドクトラルフェローに在籍した(2019-2021年)。

博士論文、『Mountains of Time: Sacred Mountains and Historical Consciousness in Japan』(『山での時間:日本の聖なる山々と歴史への意識』)では、山形県にある出羽三山での修験道と巡礼を人類学的側面から考察。.

出羽三山という場所が、他の日本の霊山と同様に、平地との地形的なコントラストだけでなく、資本主義現代社会における時間、文化、歴史的コントラストが存在すると論じている。つまり、都会での時間が、直線的で時計通りに進むのに対し、山での修業は時計がなかった昔に戻り、ご先祖と繋がり、母の胎内(山の象徴)に戻り、生まれ変わるという、「時を戻す」ということがテーマの儀式であると主張する。

各章では、出羽三山に属する羽黒山、月山、湯殿山が、現代人に与える時間感覚の変化を、現地調査による具体例と共に論じている。

出羽三山は訪問者にその深い歴史を感じさせる場所であるが、その歴史的解釈を巡り今もなお、各宗教内部での対立が続いていることも本論文で明らかにしている。

日本の現代人にとって、出羽三山での「山の時間」は、輪廻転生や、先祖への帰依を思い起こさせることで、目まぐるしい現代社会のあり方へ疑問を投げかける機会になっている。

ライシャワー研究所では、北米、南米、オセアニア、ヨーロッパに国際的に広がりつつある日本の修験道の在り方について研究し、出版に向けて、博士論文の加筆・編集を行う予定である。

 

 

平木しおり (博士号:2021年ロンドン大学東洋アフリカ学院美術史考古学専攻)

 

平木しおり博士は、2021年ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)美術史考古学部より博士号を取得。専門は近世江戸時代美術史。特に、社会における芸術の使用、役割について研究している。

博士論文『Onari: Art, Ritual and Power in Early Modern Japan』では、徳川将軍が江戸市中の大名邸を訪れる御成という儀礼を、美術史の観点から論じた。将軍は、各々理想とする「将軍」を演じる必要があった一方、大名はその目的に適した環境を用意することを要求された。この政治的演出のために、どのように様々な美術品(絵画、器物、庭園など)が用いられていたのかについて分析した。対象としたのは徳川秀忠、家光、綱吉、そして家斉の4人であり、ほぼ江戸時代全体を俯瞰している。

ライシャワー研究所では、博士論文を改稿して出版用草稿の執筆を進める他、庭園から見る江戸の発展について論文を執筆する予定である。「武蔵野」として古来より歌われてきた関東の広大な土地が、美意識と富を競う政治的な場へ、さらには将軍の都市として変化していく過程を、庭園についての詩文や画から論じる。

 

 

カーラ・ジュール (博士号:2021年オックスフォード大学東洋学専攻)

 

カーラ・ジュール博士は、2021年にオックスフォード大学東洋学部セント・アントニーズ・カレッジにて博士号を取得。また、同大学にて現代日本学修士号、ならびにカーディフ大学にて経営学・日本学の学士号を取得。

博士論文『Good Girls Don’t Get Ahead? Teachers’ Perceptions of the Gender Gaps in Mathematics in Japan』(『女子は抜きんでられない?日本における数学のジェンダーギャップに関する教師の認識』)は、日本の数学教師を対象に、生徒の成績や態度の男女差に関する認識を探るものである。数学とジェンダー・男女差のテーマは一般に「タブー」の話題とされてきた。本論では、数学での性差問題が、性別役割に関する先入観や数学の男女差についての認識不足、日本の現代教育制度の特徴に隠れていることを提示する。また、文系・理系制度が教師の認識に及ぼす影響も明らかにしている。

ライシャワー日本研究所では、出版に向け、博士論文の加筆・修正を行う予定である。また、同論文の研究手法を応用し、国語・英語教師を対象に、「文系教師」の男女差の認識に関する研究も行う予定である。更に、博士論文に基づいて、数学科の女性教師の進路選択メカニズムなどに関する研究論文も執筆予定である。

 

 

レイ・ユウカ (博士号:2021年ノースウェスタン大学日本歴史専攻)

 

レイ・ユウカ博士は、2021年ノースウェスタン大学歴史学部にて博士号を取得。近世・近代の日本史を専門としている。研究テーマは世界史(グローバルヒストリー)、植民地史、科学技術史、環境史、都市史に及ぶ。

博士論文、『The Muscle-Powered Empire: Organic Transport in Japan and its Colonies, 1850 – 1930』では、日本及び日本統治時代の台湾における人力車と人車鉄道に着目し、その近代性を説いている。同論文では、人力で動く“オーガニック”な交通機関の普及が近代化や帝国の発展に与えた影響について示すことで、それらは必ずしも電化やガソリンなどの普及による先端技術の拡大によるものではなかったかもしれないと推論している。つまり、交通機関を含む有機的な技術や産業は、都市空間が変貌し、植民地主義が台頭した時代の中で、「近代性」そのものを変える力があったのではないかと考察している。

ライシャワー日本研究所では、デジタルアプローチを取り入れながら、博士論文の出版に向け加筆・修正を行う予定である。また上記のテーマをさらに発展させた2つ目のプロジェクト(仮称:『Beyond the Limits of the Empire』)についても予備調査を開始する予定である。同プロジェクトでは、1920年代から1940年代にかけての南進政策に伴って、日本と台湾の中小起業家と知識人がいかに東南アジアのゴム産業と鉱業に進出したかに注目して研究を進める。さらに、近世日本における動物の移動性、ジェンダーから見る交通史など、他の研究論文も複数執筆予定である。

 

 

潘 かぎょう (博士号:2021年シカゴ大学日本歴史専攻)

 

潘がぎょう博士は、2021年シカゴ大学歴史研究科にて博士号を取得。日本やアジア全般における「人権」をめぐる言説の歴史、特にいわゆる「歴史問題」をめぐる「人権」アクティビズムの形成の経緯に注目する。

単著原稿『Beyond Postwar, Beyond Nation: “Human Rights” and the “History Problem” in Modern Japan and Asia, traces』(仮称)では、「人権」という言葉が、明治初期に西洋の法的・政治的概念を翻訳するために生まれて以来、1990年代にアジアにおける日本に対する戦争・植民地支配の被害に対する補償や賠償を求める運動の根底となった概念になるまでの歴史をたどっている。「人権」という言葉が社会の言説や運動においての文脈をさかのぼることで、この概念はいかに国民主義・立憲主義のコンテクストから脱皮し、トランスナショナルな可能性を秘めた複雑な言説へと変化してきたかを考察している。

ライシャワー研究所では、本論文の出版に向けての加筆・修正に加え、1950 年代における戦犯釈放運動と、国連における「human rights」言説に対する日本の外交姿勢との関係を考察する論文を執筆する予定である。さらに、Neo4jやGephiなどのデジタルツールを用いて、日本とアジアにおける歴史的正義の活動のグラフデータベースを構築するための予備研究を行う。