ライシャワー日本研究所ポストドクトラルフェローシップは、博士課程卒業直後の研究者が研究を続け、博士論文の出版を目指すことをサポートしています。フェローは、ハーバードの日本研究コミュニティと様々なかたちで関わり、教員、学生とともに研究に従事する機会が得られます。さらに、ジャパン・フォーラムで研究結果を発表する機会が設けられています。
2026〜2027年度ライシャワー日本研究所ポストドクトラルフェロー
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黒宮直美(博士号:2025年コロンビア大学近現代日本美術史・建築史専攻)
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黒宮直美は近現代日本美術史および建築史を専門としている。2025年にコロンビア大学より博士号(東アジア美術史)を取得。ライシャワー日本研究所ポストドクトラルフェローとして着任する前は、ニューヨークのジャパン・ソサエティーにて研究員を務め、ギャラリー展覧会に向けた調査および執筆を担当した。
博士論文「The Collapse of Past and Present: Tracing ‘Integrated Art’ in Modern Japan」は、1920年代から1930年代初頭にかけて結晶化した芸術的現象(「統合芸術」)を検証する。全体性への衝動によって特徴づけられる「統合芸術」は、複数の分野の芸術を統一し、芸術と鑑賞者とを調和させ、伝統日本芸術(「過去」)とモダニズム(「現在」)とを融合させることを試みた。いけばなのインスタレーションから前衛演劇にいたるまで、多岐にわたる事例調査に基づき、それらの写真記録にも注目しつつ、本論文は、全体的な日本芸術実践を求めるこの「統合芸術」が、断片化した「現在」を解決することを目的としていたと論じる。伝統芸術、モダニズム、そして全体性という概念をめぐる、美学的および政治的な利害を再検討し、戦前から戦後にかけて活動していた芸術家に新たな光を当てる。
ライシャワー日本研究所では、博士論文の出版に向け、加筆修正に取り組む。また、次のプロジェクトの第一段階として、近現代日本建築およびデザインにおける色彩の存在と意味についての研究も進む予定である。
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はな・レーセン(博士号:2026年コロンビア大学大学院東アジア言語文化専攻)
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はな・レーセンは前近代日本文学と文化、特に中世日本芸能を専門とする。2026年にコロンビア大学大学院東アジア言語文化学科で博士号を取得。
博士論文「Choreographies of Eccentricity: Madness, Dance, and Gender in Medieval Noh Theater」では、室町時代に展開した、とりわけ狂女物を中心とする「物狂能」を考察した。前近代日本における狂気が心理的・内面的現象としてだけではなく、むしろ動く身体を通して現れるものとして理解されていたことを明らかにし、「狂い」がしばしば舞そのものを意味していたことに注目した。狂人の奇矯な動作とそれを見つめる観客性の不可分な関係を検討することで、本論文は能における狂気がいかに身体を変容させ、ジェンダー化し、差異を本質化したと同時に、周縁に置かれた中世芸能者を上位文化の担い手として浮かび上がらせたかを明らかにした。さらに、狂気およびジェンダー化された身体の文化的条件を強調し、文化・政治・社会の交差する視座から能の美学的・制度的確立に光を当てた。パフォーマンスを身体的アーカイブとして重視する本研究は、研究者自身の能の謡と舞の稽古からくる経験にも支えられている。
ライシャワー日本研究所では、博士論文の出版に向けて加筆修正するとともに、次の研究プロジェクトとして、現在では日本舞踊と総称される諸芸能における、近世の新たな身体運動のパラダイム生成に関する研究を進める。
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ユーイン・リー(博士号:2026年カリフォルニア大学ロサンゼルス校前近代日本文学専攻)
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ユーイン・リーは2026年6月にカリフォルニア大学ロサンゼルス校より博士号を取得。平安期の物語文学において、とくに『源氏物語』を中心に、物語が人物・出来事・社会関係をいかに形づくるのかを考察している。
博士論文「The Making and Unmaking of The Tale of Genji」 では、『源氏物語』を、物語を語りながら同時に、「物語はいかに成立するのか」を内部から問い続けるメタフィクション的なテクストとして捉え直した。とくに、噂や言葉を超えた媒体による情報の流通、作中の和歌·手紙·日記における作者性といった物語生成の諸契機に注目し、人物や出来事がいかに物語になるのかを考察した。さらに、作中人物が自己や他者を物語化しようとする営みとそこからの離脱という相反する動態を通して、『源氏物語』が自らの物語形式の限界を露呈させることを論じた。ライシャワー日本研究所では、博士論文の出版に向けて加筆修正を進める予定である。
ライシャワー日本研究所では、博士論文の出版に向けて加筆修正を進める予定である。
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レイハン・シリンガー (博士号:2026年ケンブリッジ大学近現代日本史専攻)
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レイハン・シリンガー博士は、近現代日本史を専門とする歴史研究者である。専門は政治外交史および国際史で、君主制・天皇制、帝国、戦争、国際秩序を中心に研究している。2026年にケンブリッジ大学アジア・中東研究科で博士号を取得し、在学中はトリニティ・カレッジに所属した。2024年より、パリ政治学院(Sciences Po)で日本史を教えている。
博士論文 “Mobilising Monarchy: Emperor Hirohito and Japan’s Imperial House Diplomacy, 1921–1975” は、国際秩序が大きく組み替えられるなかで、日本の皇室が外交と国家運営の手段としていかに用いられたのかを検討するものである。同論文は、皇太子時代の1921年の欧州訪問から、戦後の欧米訪問に至るまで、昭和天皇の外遊を跡づける。これらの訪問を単なる儀礼的行事ではなく国際政治上の出来事として捉えることで、戦間期の地位をめぐる外交、戦時期の帝国国家建設、そして戦後和解、国際社会への再統合、冷戦期の同盟運営において、皇室が日本外交の中で果たした役割を明らかにしている。
ライシャワー日本研究所では、博士論文を単著として刊行するための改稿を進める予定である。あわせて、次の研究プロジェクト “How Wars End: Japan’s Endgame as Global History” にも取り組む。同プロジェクトは、敗北から戦後の政治的決着へと向かう日本の移行を、戦争終結、正統性、戦後秩序をめぐるグローバル・ヒストリーの中に位置づけるものである。
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クリストファー・テイラー(博士号:2024年ジョンズ・ホプキンス大学比較思想・文学専攻)
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クリストファー・テイラーは、2024年にジョンズ・ホプキンス大学にて博士号(比較思想・文学専攻)を取得した。2021–2022年にかけて、日本学術振興会の特別研究員として東京大学超域文化研究科に所属し、博士論文の研究を実施した。ライシャワー研究所のポストドクトラルフェローに着任する前には、ジョンズ・ホプキンス大学にて2年間日本メディア史、世界の特撮映画・アニメーション映画史、翻訳学などの講義を担当した。映画・メディア研究会(SCMS)のアニメーション研究部会(Animated Media SIG)の共同議長を務めている。
博士論文「Artificial Life in the Transwar Japanese Imagination」は、近現代日本メディア史を、カレル・チャペックの『R.U.R.』翻訳以降に創造された人造人間や人工生命にを通して考察する。本論の主張は、西村真琴の芸術的人造人間「學天則」から、石黒浩の「ジェミノイド」シリーズ、オルタナティブ・マシンのアンドロイド「Alter3」に至るまで、人造人間を「メディア」として捉えるべきだという点にある。具体的には、それらが持つ二重性を分析する。すなわち、電気、空気圧、フィルム映写、原子力などによって「動かされる」技術的かつ動的なメディアとしての側面と、実在あるいは想像上の共通の過去を再活性化させたり、現代の希望や恐れを具現化させたり、あるいは特定の未来像で魅了したりすることで、観客を認知的かつ情動的に「動かす」メディアとしての側面である。
ライシャワー研究所では、博士論文の出版に向けて加筆修正作業を行う予定である。