ポストドクトラルフェロー

ライシャワー日本研究所ポストドクトラルフェローシップは、博士課程卒業直後の研究者が研究を続け、博士論文の出版を目指すことをサポートしています。フェローは、ハーバードの日本研究コミュニティと様々なかたちで関わり、教員、学生とともに研究に従事する機会が得られます。さらに、ジャパン・フォーラムで研究結果を発表する機会が設けられています。

2024〜2025年度ライシャワー日本研究所ポストドクトラルフェロー

ジョエル・リットラー(博士号:2024年オックスフォード大学日本近代史専攻)

 

ジョエル・リットラーは日本近代史における西南戦争の敗者を研究し、越境する文化的・思想的歴史を専門としている。2024年にオックスフォード大学歴史学部より博士号を取得。2022-2023年には、訪問研究員として九州大学に所属し、2018-2020年には、タイのタマサート大学ならびにマヒドン大学にて哲学科の講師を務めた。

博士論文『Meiji Civil War Losers in Asia: Mapping Miyazaki Tōten’s Transnational Revolutionary Space』(『明治の内戦敗者とアジア:宮崎滔天の越境する革命をめぐって』)では、表立った政治の舞台から締め出されていた西南戦争の敗者らが、実は新たな近代や進歩の思想を追求していたと論じる。その「進歩」の思想は中国、フィリピン、シャム(タイ)において実行に移された。知識人、革命家、作家、浪曲家として有名な宮崎滔天(1871−1922)の生涯を通じて、近代日本における西南戦争の敗者の役割が明らかになる。また、アジア革命、大衆文化と抗議を中心に、明治時代に存在していた多様な思想や将来像についても明らかになる。

ライシャワー日本研究所では、博士論文の出版に向け、加筆・修正する予定である。加えて、西南戦争の敗者らの朝鮮や東南アジアでの活動に関する研究も進める予定である。

 

アレクサンダー・マーフィー(博士号:2022年シカゴ大学東アジア言語文化研究専攻)

 

アレクサンダー・マーフィー博士は、現代および近代日本文学、パフォーマンス、メディア研究を専門としている。2022年にシカゴ大学東アジア言語文化研究科より博士号を取得し、現在クラーク大学で言語文学科に助教授を務めている。近代日本文学、パフォーマンスおよびメディア文化を研究する。

博士論文『What the Ear Sees: Media, Performance, and the Politics of the Voice in Japan, 1918-1942』(『耳で見えるもの:1918年から1942年にかけての日本におけるメディア・パフォーマンス・声の政治性』)では、詩、音楽および音響学をめぐり戦間期日本における声の意義を検討する。国家の帝国主義プロジェクトの絶頂期にサウンドメディアが日本に出現したため、人間の声はその時代の社会的な緊張がリズム、調性、およびノイズの問題として表現される場となったことを論じている。この状況に対して、詩人、弁論家、歌手、音響学者などからなる国境を越えるキャストが、サウンドメディアの持つアフォーダンスを人間性とアイデンティティの新しい可能性に向けることで、日本帝国の文化的な境界を再構築しようと努めたことを示している。

ライシャワー日本研究所では、博士論文の出版に向け、加筆・修正する予定である。また、二作目のために1970年以降の日本アバンギャルド詩とパフォーマンスに関する研究を進める。

 

ジェームス・スカンロン・カネガタ(博士号:2024年イェール大学で東アジア言語と文学研究専攻)

 

ジェームス・スカンロン・カネガタは、2024年にイェール大学で東アジア言語と文学研究学科の博士号を、2014年にハワイ大学で歴史言語学の修士号を取得した。ライシャワー日本研究所に博士研究員として着任する以前は、イェール大学東アジア言語と文学研究学科で2年、講師を務め、古代日本文学、文語、言語学、そして古代歌曲の講座を担当した。

博士論文の『Reading Sonority: Heian Songbooks and the Japanese Poetic Tradition』については、平安宮廷の文学における「古代歌謡」そして譜本を文学伝統内の要素として提示した。和歌やさまざまな散文作品に収録された平安期歌謡の歌を作成する際に、譜本を参照文献として読まれ、流通し、そして伝承されていたことを明確化し、古代文学の生成における活発な役割を示す。スカンロン・カネガタ博士の研究は、芸能と文学伝承史、言語と文学制作の間の複雑な相互作用を考察することによって、古代日本における唄う歌や口頭伝承という概念を文学から切り離す従来の概念を再建検討するものである。

ライシャワー日本研究所に在籍している間は、博士学位論文を書籍原稿に改訂する予定であり、さらに、平安時代の音楽テキストと演奏の伝統を通して日中間の文化交流を調査し、演奏と東アジア文学の伝統の国境を越えたダイナミクスについての研究プロジェクトも開始する予定である。

 

ジョナサン・スマス(博士号:2024年ハーバード大学で東アジア言語文明と考古学専攻)

 

ジョナサン・スマス博士、2024年5月にハーバード大学で東アジア言語文明と考古学の副専攻で博士号を取得。研究テーマは考古学の遺跡と古文書の総合研究からみた、中世日本仏教と社会との関係を再解釈に重点を置いている。

博士論文『Places Apart: Buddhist Reclusion in Medieval Japan』(『別の所:日本中世の社会と遁世仏教』)は、遁世僧の日本中世仏教への影響を評価する。考古学の遺跡と古文書の総合研究で遁世僧と在地社会との関係を分析する。別所という遁世僧に住んでいた場所を中心に、本論文はいわゆる遁世・隠遁は中世社会と民衆と深く関係されたと論じる。別所という遁世の場所では仏教と中世民衆の世界とのネゴシエーションを解明して、仏教と中世民衆への普及の再解釈の重要性を明らかにする。

ライシャワー日本研究所では、博士論文の出版準備を進めるとともに、中世の長野の村で発掘された11世紀の木造六角宝塔についての研究も行う。この宝塔は、施餓鬼会の儀式で使用されていた。