ポストドクトラルフェロー

ライシャワー日本研究所ポストドクトラルフェローシップは、博士課程卒業直後の研究者が研究を続け、博士論文の出版を目指すことをサポートしています。フェローは、ハーバードの日本研究コミュニティと様々なかたちで関わり、教員、学生とともに研究に従事する機会が得られます。さらに、ジャパン・フォーラムで研究結果を発表する機会が設けられています。

2020〜2021年度ライシャワー日本研究所ポストドクトラルフェロー

トーマス・ガウバッツ(博士号:2016年コロンビア大学日本文学専攻)

 

2016年コロンビア大学東アジア言語文化研究科より博士号(日本文学)取得。同年ノースウェスタン大学アジア言語文化学科助教、現在に至る。17世紀から19世紀にかけての近世文学および出版文化を専門とする他、研究テーマは近世日本の社会史、都市史、比較都市論などに及ぶ。

主要研究テーマは近世文学における都市空間・コミュニティー・身分アイデンティティーの表象。著作原稿『Writing Urban Identity in Early Modern Japan』では、17世紀から19世紀初頭にかけての俗文芸の中における町人像や都市空間を読み解く一方、文芸書の教訓やメディアの側面についても考察し、身分共同体(町・家・長屋)の境界を越えた都市的アイデンティティーやコミュニティーのテキスト性、つまり出版文化によってこそ可能になったアーバニズムの創出や変遷を考察する。近年の都市史や身分論、比較都市論等を鑑み、近世都市社会の身分的周縁や空間構造の変遷に着目し、井原西鶴や江島其磧などの文芸作品が身分的境界をいかに越境し、または再構築したか、近世身分秩序における新たな位置づけや解釈を試みている。

ライシャワー日本研究所では、出版に向け本稿を加筆・修正する傍ら、幕府・町方社会・周縁社会という三つの観点から江戸の空間構造やその変遷を考察する論文、18世紀の洒落本における身分やマスキュリニティを検討する論文等、上記のテーマを更に発展させる一連の論文についても執筆予定である。

 

ミケーラ・ケリー(博士号:2016年東京大学大学院文化人類学専攻)

 

ミケーラ・ケリー博士は、2016年東京大学大学院総合文化研究科文化人類学研究室にて博士号を取得。同年Andrew Mellon Foundation/CLIRのデジタルヒュマニティーズPDに採用され、一年間ラファエッット大学にて東アジアイメージコレクションに関する研究を行い、2018年から同大学で人類学の訪問助教授として着任し現在に至る。

博士論文の『東北における現代のマザーフッド:社会関係資本とネットワーク理論を利用した民族誌』では、現代日本で子育てをしている女性の日常的な慣習に焦点を当て、ブルデューの資本理論の機能性と意義の再評価を行った。 3年間に及ぶ徹底したフィールドワークとアーカイブ研究に基づき、女性が子育ての中でどのようにソーシャルキャピタル(社会関係資本)を形成しているかについて分析し、現在日本政府も取り組んでいる日本における低出生率の問題についても、見解を示している。

現在改訂中の2冊目の本、『愛国的教育学:日本の詩のゲームカードが戦争の世代をどのように教えたか』は、ラファイエット大学での博士研究員時代に行ったアーカイブ研究と目録作成作業が反映された内容である。 昭和10年代から終戦までに生産された22組のかるたゲームを使用し、幼児教育の現場にて教材として使用されたかるたの歴史、そして札のビジュアルおよびテキスト分析と合わせ、子供に与える愛国心教育の影響について論じている。このプロジェクトは、博士論文と同じく、個人に対する社会からの圧力や期待の影響をより深く考察している。

ライシャワー日本研究所では、フーコーのバイオパワーの枠組みの中で、20世紀及び21世紀における日本の少子化対策に関する政策をさらに調査し、論文の執筆に取り組む予定である。その後、女性のソーシャルネットワークづくりに関する能力(適応力と生殖力)を調査し、執筆予定である。

kellymi@fas.harvard.edu

ダニエレ・ラウロ(博士号:2019年ノースカロライナ大学チャペルヒル校日本近世史専攻)

 

ダニエレ・ラウロ博士は2019年にノースカロライナ大学チャペルヒル校の歴史学部にて博士号を取得。近世史を中心に、特に徳川幕府の政治、儀礼、物質文化に着目した研究を行っている。

博士論文である『Meanings and Functions of Rituals in the Politics of the Tokugawa Shogunate: A Study of the 1843 Shogunal Pilgrimage to Nikkō (Nikkō shasan)』では、徳川将軍家が、その覇権的位置の正当化、権威の維持、社会的秩序の安定のためどのように儀礼を採用し、執り行っていたかというテーマについて研究している。特に、歴代将軍が都のある江戸から、初代将軍、徳川家康の祀られる日光へ参詣を行う「日光社参」という儀礼に着目している。「日光社参」のあらゆる側面(東照宮への参詣発令から実際の参詣、そして参詣後まで)を分析することで、徳川幕府の重鎮が日光を訪れたのは、その武力の誇示、幕府の存続と正統性の誇示、将軍と家来との間の主従関係の再確認、幕府の朝廷に対する優位性の誇示、行政の改革、後継ぎの誕生や将軍の継承など徳川幕府の政治に関する変更のための告知等、様々な意図があったことを明らかにしている。

ライシャワー日本研究所では、博士論文の出版に向け、論文の加筆・修正を行う予定である。また、「徳川礼典録」(1881年)、「徳川盛世録」(1889年)、「千代田之御表」(1897年)などの徳川幕府の儀礼について描写されている書物また視覚的史料に関する研究も行う予定である。これらの作品は幕末以降、明治政府の支援を受け制作されたものであり、明治後期に流行した「徳川ノスタルジー」の影響を受けている。

dlauro@fas.harvard.edu

マティアス・ヴァンオメン(博士号:2020年ハワイ大学マノア校文化人類学専攻)

 

ヴァンオメン・マティアス博士は、現代日本社会、主にデジタル・カルチャー、遊び、若者、ジェンダーなどを専門とする文化人類学者。オランダのライデン大学日本学科卒後、2020年、ハワイ大学マノア校人類学科より博士号を取得。

博士論文、『親密なるファンタジー:現代日本におけるオンラインビデオゲーマーについてのエスノグラフィー』(『Intimate Fantasies: an Ethnography of Online Video Gamers in Contemporary Japan』)では、日本の若者にとって、オンラインゲーム内でのファンタジーの世界がどの程度、彼らの「居場所」となっているかについて考察する。エスノグラフィーデータの分析により、プレーヤーはゲームの中でのファンタジーの世界と現実世界の違いを認識しているにも関わらず、ゲーム内での人間関係が現実世界での人間関係にも徐々に影響を及ぼす傾向にあることが分かった。ゲームに夢中になる者(いわゆるゲーマー)は一般的に非社会的であると思われがちだが、本論文ではゲームが新たな社交性や出会いをもたらす可能性を提示する。また、最近のコロナウィルスの影響により日本の若者が自宅で過ごす時間が増加したことで、彼らがオンライン上でどのように時間を過ごしているのかという議論を発展させ、本研究に質的、全体論的な手法を加える予定である。

ライシャワー日本研究所では、博士論文の出版に向け、準備を進める予定である。また、エスノグラフィーデータの分析に基づく論文、「オンラインファンタジーゲームが文化・国家国境を越える可能性について」など他の複数の研究論文も執筆予定である。更に、近年活発化している日本のeスポーツ産業やインディーゲーム産業についての新たな研究プロジェクトも開始する予定である。

mvanommen@fas.harvard.edu